リスクの概要:
チケット販売
現在の不正の状況
イベントチケット市場は、パンデミック以降、驚異的な回復を遂げています。 実際、2022年にはライブイベントの需要がパンデミック前の水準を上回り、世界の売上高は2028年までに940億ドルに達すると予測されています。
しかし、チケット販売を狙った不正も同様に勢いを増しています。 Riskifiedの調査チームは、2024年中頃時点で前年比22%の不正リスク増加を確認しました。その背景には、他のeコマース分野に共通するCNP(Card Not Present)型不正に限らない、この業界特有の脆弱性が存在します。 犯罪グループは次の理由からイベントチケットを標的にします:
チケットは、配送先住所などの詳細な本人情報を求められることがほとんどなく、即座に、ほぼ匿名で購入できるため、販売側が決済を十分に確認する時間も限られています。
特に人気の高いイベントでは、高額で転売しやすく、チケットを換金手段として利用することが容易です。また、転売に利用できる二次流通プラットフォームも数多く存在します。
さらに、供給が限定されていることから自然と需要が高まり、チケットにはプレミアム価格がつきやすくなっています。
チケット取引のリスク推移

ソース:Riskified
主な課題:
- Riskifiedの調査チームがダークウェブ上で確認した情報共有には、「ソーシャルエンジニアリングを使えば何でも可能」との記述もありました。 実際、不正利用者は「早く帰らなければならなかった」「メールが届かなかった」などと虚偽の主張をしてチャージバックを申請し、カスタマーサポートは対応に苦慮する場面が増えています。
- 大量の取引が高速に発生するような需要の高いイベントは、不正利用者にとって格好の標的となり、攻撃を招きやすい状況を生み出しています。
- 活発な二次流通市場 の存在により、ファンは正規の販売業者と不正な転売業者の見分けがつきにくくなっており、販売側も「直前の正規購入」と「直前の不正取引」を判別するのが難しくなっています。
- チケット価格と需要は季節性があり、変動が激しく、予測も困難です。 イベントの種類、ジャンル、さらには会場ごとにリスクプロファイルは大きく異なるため、チケット販売事業者は継続的に不正対策を調整し、最適化し続ける必要があります。
この業界分析では、Riskifiedの調査チームが1年間にわたるコンサート、スポーツ、演劇チケットの販売データをもとに、不正の新たな傾向を調べました。
不正の傾向
チケット不正は、ある意味で“平等主義”的な犯罪です。 消費者、販売事業者、さらにはイベント自体も被害の対象となり、不正を行う側も多様です。 手口もさまざまで、他人になりすますといったソーシャルエンジニアリングを試す初心者から、BOTを使って大量購入を狙うプロフェッショナルまで幅広く存在します。
チケット業界における不正手口は急速に進化しており、個々の事業者ではなく、業界全体を標的とする犯罪グループも増えています。 これは、不正利用がより組織的かつ体系的に展開されていることを示しており、スピード感のあるチケット市場の特性を悪用していると言えます。 Riskifiedではこうした動きを継続的に監視し、複数のチケット販売事業者を跨って共通項が見られるパターンや戦略を把握しています。 以下に代表的なものを紹介します。
チケット価格別のリスク
価格が高いチケットの取引は、ビジネスにとって最もリスクが高くなりがちですが、実際にはそのような高額取引は全体の中ではごく一部にすぎません。 むしろ販売事業者にとって問題なのは、201〜500ドルの価格帯の注文です。 この価格帯は、より重い運用負荷を生み出し、誤って拒否されるリスクを高めます。
リスク レベルによるチケット価格カテゴリ
チケット枚数別のリスク
11-50 枚のチケットを含む注文は、不正の可能性が最も高い傾向にあります。 しかし、実際に注文数が最も多いのは2〜5 枚の購入であり、販売事業者にとってはこちらの方が判断が困難です。
不正利用者は正規顧客を装ってこの一般的な注文パターンを狙い、不正検知をかいくぐろうとします。 販売側は、正規の取引を誤って拒否せずに不正だけをブロックするという、慎重な対応が求められます。
チケット枚数 – リスク比較
イベント種別によるリスク
特定のイベントのリスクレベルは、さまざまな要因によって左右されます。 たとえば、スポーツ、コンサート、演劇などのイベントは、それぞれまったく異なるリスク特性を持っています。 さらに、季節要因やイベント種別ごとのジャンル、開催地などもリスクに大きな影響を与えます。 販売事業者は、年間を通じてチケットポートフォリオ全体にわたり、不正対策を柔軟に見直し、継続的に調整していく必要があります。
イベントカテゴリ – リスクレベル
リードタイムによるリスク
購入リードタイムに関連するリスク要因は、チケット販売事業者にとってさらなる複雑さをもたらします。
事前購入は人気があり、一般的にリスクが低いと見なされがちですが、詐欺師が再販までの期間を長く確保できるため、実際には不正利用によるコストが高くなる場合があります。
一方で、当日購入は価格が高くなる傾向があり、不正にもつながりやすい側面があります。ただし、そのリスクはイベントの種類によって異なります。 たとえば、同じ当日購入でも、コンサートチケットのリスクはスポーツチケットの約2倍にのぼるため、すべてのケースに一律のルールを適用することはできません。
購入時間 – リスクレベル
曜日と時間帯によるリスク(いつでも“不正の時間”)
大半のチケット注文は購入者のタイムゾーンで午前10時から午後8時の間に行われますが、不正利用者はそのような常識的な時間には縛られません。 不正注文が最も多く発生する時間帯は、午後3〜5時および午後11時(購入者の現地時間)です。 つまり、チケットを国際的に販売している場合、24時間いつでも不正のリスクがあるということになります。
さらに、不正行為の50%以上は金曜・土曜・日曜に集中しています。 これは、不正利用者が事業者側のスタッフの対応が手薄になりやすい時間帯を狙って活動しているためと考えられます。
デバイス乗っ取り(DTO)によるリスク
最近の大規模な攻撃から、深夜や早朝など営業時間外に注文が集中するという明確なパターンが浮かび上がっています。これらの注文には、セキュリティが低下したLinuxやAndroidのOSを使用したデバイスや、東アジア発行のクレジットカード、PayPal・Google Pay・Amazon Payといった従来型ではない決済手段が多く利用されています。 こうしたデバイス乗っ取りは、高齢者にフィッシングリンクを送ることから始まるケースが多く見られます。 不正利用者は、被害者が眠っている時間帯を狙ってデバイスにアクセスし、SMS認証を簡単に突破して高額チケットを購入します。 2025年に入ってから現在までにRiskifiedが検知したDTO攻撃のうち、60%がチケット業界を標的にしており、短期間で多額の損失を被ったチケット販売事業者もいます。こうした状況から、脆弱なこの業界を守るために、堅牢な不正対策の導入が急務となっています。
実証された対策
「変動性(volatility)」「速度(velocity)」「多様性(variability)」という3つのVが絡み合うチケット業界における不正対策は極めて複雑です。 チケット販売事業者には、あらゆる注文・顧客・イベントに対して適切な警戒レベルを維持するため、柔軟かつ精度の高い不正検知ソリューションと戦略が求められます。
セキュリティ、スムーズな決済承認、そして業務効率のバランスを保つには、非常に高性能なツールの導入が不可欠です。こうした体制を整えることで、顧客からの信頼とビジネスの収益性を両立させることが可能になります。
購入完了前に不正対策を自動化
チケット販売事業者が「3つのV(変動性・速度・多様性)」に対応するためには、不正対策の自動化が不可欠です。 目視等によるレビューでは、すべてのリスクシナリオを効率的に細かく管理することができず、チームへの負担が増すだけでなく、人気のチケットを早く手に入れたい顧客の体験も損なってしまいます。 また、ルールベースのシステムでは、個々の注文に影響を与える複雑かつ変化し続ける要素に対応することはできません。
唯一、インテリジェントな自動化と機械学習だけが、個々の注文ごとに最適な対応を24時間体制で行い、利益の最大化と顧客満足の両立を実現できます。
アイデンティティベースのソリューションを採用
詐欺師は、特定の販売業者ではなく、チケット業界全体のような「業界単位」で戦略的にターゲティングを行っています。 市場全体のインテリジェンスや注文をつなぐネットワークがなければ、信頼できる購入者や転売業者と悪質なユーザーとを見分けるのはほぼ不可能です。
Riskifiedのダイナミックなテクノロジーは、加盟店ネットワーク全体の規模でパターンを解析します。 機械学習を活用して、各チケットオーダーのリスクレベルに応じた適切なチェックアウト経路を判断して、承認、不正拒否、または必要最小限の追加認証の実施を慎重に行うことで、チケット販売業者は不正注文を高精度で排除し、正規の売上を最大化することが可能になります。
そして何より重要なのは、チェックアウト前にこの判断を下すことで、不正の機会自体を排除し、常習犯によるソーシャルエンジニアリングにも対抗できる点です。
86%
チケット業界の注文のうち、他の注文と外部的にリンクしている割合
32
外部で関連付けされた注文の 平均数
6
外部で関連付けられた小売事業者の平均数
Riskifiedとのパートナーシップ
Riskifiedは、チケット業界の20社以上の主要販売業者と提携し、毎年10億件近くのチケット取引を処理しています。また、世界中でチケットを購入する6,400万のエンティティを監視しています。 チケット販売業者は、業界における極めて複雑なリスクを管理し、ビジネス成長を加速させるパートナーとしてRiskifiedを信頼しています。
リスク概観について
Riskified は、幅広い業界にわたる加盟店ネットワークを通じて処理された注文データを収集・分析しています。 このレポートでは、そうしたデータに加え、オンライン上の不正関連フォーラムから得た独自の調査結果やインテリジェンスを組み合わせ、業種ごとのリスク傾向とインサイトを提供します。
Yael Hemo
Data Analyst, Data Insights team
Adi Dick-Charnilas
Senior Data Analyst, Data Insights team